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いとばや|人類学

術語|ポストモダニズム

 
 
 
ポストモダニズムは、20世紀後半に登場した社会思想や文化的傾向を指す概念で、近代(モダン)の価値観や大きな物語を疑問視し、多様性や相対主義を重視する立場です。社会学の分野では、ジャン=フランソワ・リオタールジャン・ボードリヤールらの思想家によって提唱され、現代社会の複雑な現象を理解する上で重要な視点を提供しています。
 
 
 

ポストモダニズムの定義と歴史的背景

 
ポストモダニズムは、1960年代頃からフランスを中心に発展した哲学的・文化的潮流で、近代主義モダニズム)への反省や批判から生まれました 。この思想は、絶対的な真理や普遍的な価値観の存在を疑問視し、多様性や相対主義を重視します。歴史的には、第二次世界大戦後の社会変化や科学技術の進歩、消費社会の到来などを背景に登場しました ポストモダニズムの定義は曖昧で、美術史学者の間でも解釈が分かれることがありますが 、一般的には「すべての文化、伝統、人類に対する説明」を懐疑し、相対的な真実を探求する姿勢を指します。この思想は、芸術、建築、文学、哲学など幅広い分野に影響を与え、従来の価値観や表現方法に対する挑戦をもたらしました 
 
 
 

ミシェル・フーコーと権力の概念

 
ミシェル・フーコーMichel Foucault, 1926-1984)は、権力の概念を従来の理解から大きく転換させた思想家として知られています。フーコーは、権力を単なる抑圧や禁止の機能としてではなく、社会の隅々にまで浸透し、個人の行動や思考を形作る複雑なネットワークとして捉えました。フーコーの権力論の特徴は、「ミクロ権力」と呼ばれる概念にあります。これは、権力が特定の個人や機関に集中するのではなく、日常的な関係性や実践の中に遍在するという考え方です 。また、フーコーは「生-権力」(biopouvoir)という概念を提示しましたが、これは一般的に理解されているような「生」全般を対象とするものではなく、むしろ「生物である限りの人間」を対象とした権力のメカニズムを指します フーコーの権力概念は、「規律・訓練」と「調整」という二つの側面を持ちます。「規律・訓練」は個人の身体を対象とするミクロレベルの権力作用を指し、「調整」は人口全体を対象とするマクロレベルの権力作用を指します 。これらの概念を通じて、フーコーは権力が社会の秩序形成にどのように関与しているかを分析しました。
 
 
 
ジャン=フランソワ・リオタール(1924-1998)は、ポストモダニズムの代表的思想家として知られ、「大きな物語の終焉」という概念を提唱しました。リオタールは『ポストモダンの条件』(1979)において、近代社会を支えてきた普遍的な理念や価値観を「大きな物語」と呼び、その有効性が失われつつあると主張しました  。リオタールによれば、「大きな物語」とは理性的で自律的な主体が合意によって真理と正義を共有し、進歩思想を中心に社会を運営するという近代の理念を指します 。しかし、ポストモダン社会では、このような統一的な世界観が疑問視され、代わりに多様な「小さな物語」が台頭するとリオタールは論じました。「小さな物語」は、普遍的な理論の構築を目指すのではなく、複数の言説の異質性を尊重し、メタ物語にならないよう注意を払います  。リオタールの大きな物語批判は、科学や知識の正当性を問い直し、多元的な価値観や解釈の可能性を開くことで、ポストモダン社会における思考の枠組みに大きな影響を与えました  
 
 
 
ポストモダニズムは、その相対主義的な立場から様々な批判を受けています。主な批判点は、「すべては相対的だ」という考え方が、事実に基づかない陰謀論や人を抑圧する主張にも余地を与えかねないという点です 。また、科学の分野では、ポストモダニズムの「古さを価値とする態度」が成り立たず、常に新規性を求める姿勢が基本となっています 。さらに、宗教や霊的な事柄に関して客観的または絶対的な真理を認めないポストモダニズムの姿勢は、宗教多元主義につながり、信仰や宗教における差異の喪失をもたらす可能性があると指摘されています 。一方で、アメリカでは「リベラリズム」の立場からポストモダニズム批判が展開され、被差別者の経験に基づく特別な知識の主張に対する疑問が提起されています 。これらの批判は、ポストモダニズム相対主義的な立場が社会や学問の様々な領域で引き起こす問題点を浮き彫りにしています。
 
 

ポストモダン学習入門

 
ポストモダニズム論を学ぶ際には、その複雑な概念と多様な解釈を理解することが重要です。まず、モダニズムとの比較を通じてポストモダニズムの特徴を把握することが有効です。モダニズムが普遍的な真理や進歩を追求したのに対し、ポストモダニズムは多様性と相対主義を重視します 。学習の焦点として、ジャン=フランソワ・リオタールの「大きな物語の終焉」やミシェル・フーコーの権力論など、主要な思想家の概念を理解することが重要です。また、ポストモダニズムが芸術、建築、文学など様々な分野に与えた影響を学ぶことで、その広範な影響力を理解できます 。さらに、ポストモダニズムへの批判的視点も重要です。相対主義的立場がもたらす問題点や、科学分野との齟齬などを理解することで、より深い洞察が得られます 。教育分野では、ポストモダニズムが従来の教育観にどのような変革をもたらしたかを学ぶことも有益でしょう 。最後に、ポストモダニズムの概念を現代社会の諸問題に適用し、その有効性と限界を考察することで、より実践的な理解が深まります。このアプローチにより、ポストモダニズム論を単なる理論としてではなく、現代社会を分析する有効なツールとして活用する視点を養うことができます。
 
 
 

参考文献一覧

 
学習ガイドを以下に示します。 これらの文献は、ポストモダニズムの理解を深める上で重要な役割を果たしています。各著者の視点や批判的分析を通じて、ポストモダニズムの多面的な側面を学ぶことができます。